最決平10年12月18日(請負代金債権に対する物上代位(の可否))

平成10年12月18日の最高裁決定は、**「先取特権による物上代位の限界」**について、2つの異なるシチュエーションでルールを明確にした非常に重要な判例です。

あなたの混乱を解消するために、**「何に対して差し押さえようとしたか」**で2つのルールに整理しましょう。


1. 【賃貸借ケース】一般預金への物上代位(原則:×)

大家さんが、家賃を払わない店主(テナント)の**「銀行口座の預金全部」**を差し押さえようとしたケースです。

  • 結論: 認められない。
  • 理由: 預金口座には、店主が備品を使って稼いだ金だけでなく、いろんな金が混ざっています。特定ができないし、認めると大家さんの権利が強すぎて不公平だからです。
  • 整理: 「特定の物(備品)から生まれた金」と「口座の中の金」を同視できない

2. 【請負工事ケース】請負代金への物上代位(原則:×、例外:○)

材料屋さんが、材料代を払わない工務店が施主からもらう**「工事代金」**を差し押さえようとしたケースです。ここがテキストの難しい部分です。

  • 原則(×): 認められない。工事代金には「大工さんの手間賃」が含まれているので、材料そのものの代金とは別物だからです。
  • 例外(○): 認められる。ただし、**「特段の事情」**がある場合に限ります。
  • 「特段の事情」とは:
    • 工事代金のほとんどが「材料代」で占められている。
    • 工事の内容が、ただ「物を置いただけ(または簡単な設置)」である。
  • 整理: その工事代金が、実質的に「材料の転売代金」と同視できるなら、差し押さえても良い。

3. この判例が言いたい「究極のポイント」

裁判所は、**「名前(名目)」よりも「実態(中身)」**を見ています。

「本来のターゲット(備品や材料)が形を変えたものだ」とハッキリ言いきれる場合にしか、横取り(物上代位)はさせないよ。

  • 預金口座: 他の金と混ざるから「ハッキリ言いきれない」 → ×
  • 普通の工事: 手間賃が混ざるから「ハッキリ言いきれない」 → ×
  • 超簡単な工事: ほぼ材料代だから「ハッキリ言いきれる」 → ○(特段の事情)

まとめ:暗記用フレーズ

「不動産賃貸の先取特権で預金への物上代位はできない。動産売買の先取特権で請負代金への物上代位は原則できないが、転売代金と同視できる特段の事情があればできる。」