最判昭57年1月22日(処分清算型譲渡担保における受戻権の行使時期)
昭和57年1月22日の最高裁判決は、「処分清算型」(債権者が担保物を第三者に売却し、その代金から回収する形式)の譲渡担保において、債務者が借金を返して物を取り戻せる期限(受戻権の消滅時期)をいつにするか、という非常に実務的な問題を解決した判例です。
以前解説した「帰属清算型」とは、期限の考え方が少し異なります。
1. 事案の概要
- 債務者Aが、不動産を譲渡担保に入れました。契約は、債権者が第三者に売却して精算する「処分清算型」でした。
- Aが返済期限を守れなかったため、債権者Bは担保権を実行し、第三者Cとの間で不動産の売買契約を締結しました。
- その直後、Aが「今すぐ全額返すから、不動産を返せ!(受戻権の行使)」と主張してきました。
争点
処分清算型において、債務者はいつまでなら「受戻し」ができるのか?
- (案A)債権者が第三者Cと「売買契約」を結んだ時までか。
- (案B)第三者Cが「代金を全額支払った」時までか。
- (案C)第三者Cへの「登記」が完了した時までか。
2. 判決の結論
最高裁は、**「債権者が第三者との間で売買契約を締結した時」**に、受戻権は消滅すると判断しました。
判決のロジック
- 取引の安全: 債権者が適正な手続きで第三者と売買契約を結んだ以上、その契約を尊重すべきです。契約後に債務者の受戻しを認めると、買った人(第三者)の立場が極めて不安定になってしまいます。
- 信義則: 債務者は返済期限を過ぎている身であり、債権者が売却に踏み切った後になって慌てて返済を申し出るのは、取引の安全を害するとされました。
3. 帰属清算型(昭62判決など)との比較
ここが最も重要なポイントです。譲渡担保のタイプによって、受戻しの「最終期限」が変わります。
| 譲渡担保のタイプ | 受戻権が消滅するタイミング |
| 帰属清算型 | 債権者が清算金を**「支払い(提供)」**した時 |
| 処分清算型 | 債権者が第三者と**「売買契約を締結」**した時(本判決) |
なぜ違いがあるかというと、処分清算型の場合は**「第三者が登場する」**ため、その人の期待を保護する必要があるからです。一方、帰属清算型は債権者と債務者だけの問題なので、清算金の支払いという実質的な決着まで猶予が認められています。
4. この判例の例外
ただし、以下の場合は例外的に、売買契約後でも受戻しができる可能性があります。
- 不当に安い価格での売却: 債権者が債務者を陥れるために、わざと著しく低い価格で親族などに売った場合(背信的行為)。
- 売却手続きの不備: 契約内容が極めて不自然な場合。
まとめ:受戻権のデッドライン
この判例により、債務者にとっての「最終ライン」が明確になりました。
処分清算型の場合、**「債権者が誰か別の買い手を見つけてハンコを押した瞬間に、もう取り戻すことはできなくなる」**ということです。債務者としては、売却の交渉が進んでいる段階で、早急に手を打たなければならないという厳しい教訓を与える判決となっています。
