最決平22年12月2日(集合動産譲渡担保権に基づく物上代位)

平成22年12月2日の最高裁決定は、「集合動産譲渡担保」における物上代位の限界を画定した非常に重要な判決です。

「平成11年決定」が物上代位を肯定したのに対し、この「平成22年決定」は、集合動産譲渡担保においては**「通常の営業」の範囲内であれば物上代位は制限される**というブレーキをかけました。


1. 事案の概要

  1. **債務者(販売業者)が、倉庫内の在庫商品(集合動産)を債権者(銀行など)**に対して譲渡担保に入れ、対抗要件(動産譲渡登記など)を備えました。
  2. 債務者は、その在庫商品を通常の商売として**顧客(第三者)**に販売し、売掛金債権を取得しました。
  3. 債権者は、平成11年決定の理屈に基づき、その**「売掛金」を物上代位によって差し押さえよう**としました。

争点

「集合動産譲渡担保において、債務者が『通常の営業』として商品を売って得た売掛金に対して、債権者は物上代位できるのか?」


2. 判決の結論

最高裁は、**「原則として物上代位はできない」**と判断しました。

判決のロジック

  • 通常の営業の許容: 集合動産譲渡担保は、債務者が目的物を販売して営業を継続することを前提とした担保形式です。
  • 黙示の同意: 債権者は、債務者が商品を売って売上代金(売掛金)を取得し、それを運転資金に充てることをあらかじめ認めている(黙示の同意がある)と解釈されます。
  • 物上代位の制限: したがって、通常の営業の範囲内で売却された場合、その代金債権(売掛金)には担保の効力は及ばず、物上代位もできないとされました。

3. なぜ「平成11年決定」と結論が違うのか?

ここが混乱しやすいポイントですが、対象となる「譲渡担保の種類」が異なります。

  • 平成11年決定(肯定): 特定の工作機械など、**「特定の動産」**の譲渡担保。勝手に売ることは想定されておらず、売った場合は「担保物の価値が形を変えたもの」として代金を差し押さえられます。
  • 平成22年決定(否定): 在庫などの**「集合動産」**の譲渡担保。売ることが商売の前提であり、売上の回収まで債権者が押さえてしまうと債務者の営業が止まってしまうため、物上代位が制限されます。

4. 例外的に物上代位ができる場合

ただし、以下の場合は「通常の営業」とは言えないため、集合動産であっても物上代位が認められます。

  • 営業の廃止: 債務者が商売をやめてしまった場合。
  • 一括売却: 在庫をまとめて他社に売り払うような、通常の販売ルートを外れた処分。
  • 担保権の実行: 債務不履行により、債権者が正式に担保権を実行する手続きに入った後。

まとめ:実務への影響

この判決により、金融機関は「在庫を担保に取っているから、売掛金も当然に物上代位で押さえられる」と過信してはいけないことが明確になりました。

売掛金を確実に担保にしたい場合は、動産譲渡担保とは別に、**「債権譲渡担保(売掛金そのものを担保に取る契約)」**をあらかじめ結んでおくのが実務上のスタンダードとなっています。