最判平19年2月15日(将来債権を目的とする譲渡担保)
平成19年2月15日の最高裁判決は、「将来債権譲渡担保」(まだ発生していない将来の売掛金などをまとめて担保に入れること)の有効性について、実務上の決定的な指針を示した非常に重要な判例です。
この判決は、債権譲渡が「公序良俗に反して無効」とされるかどうかの判断基準を明確にしました。
1. 事案の概要
ある医療機関が、将来発生する8年分(96ヶ月分)の診療報酬債権(社会保険診療報酬支払基金などに対して持つ債権)を担保として譲渡しました。
その後、この医療機関が倒産状態になり、他の債権者が「8年分もの将来債権をまとめて譲渡するのは、あまりに期間が長すぎ、債務者の営業を不当に拘束するため、公序良俗に反して無効である」と主張して争われました。
争点
- まだ発生していない「将来の債権」を譲渡することは可能か。
- 譲渡の対象期間が非常に長い場合(本件では8年)、公序良俗違反(民法90条)として無効になるのか。
2. 判決の結論
最高裁は、**「将来債権の譲渡は、原則として有効である」**とした上で、期間が長期にわたる場合についても以下の判断を下しました。
① 発生可能性や期間の長さは「有効性」を直ちに左右しない
債権発生の可能性が低かったり、期間が長かったりしても、それだけで直ちに譲渡が無効になるわけではないとしました。
② 公序良俗違反になるかどうかの基準
判決は、譲渡が無効になるのは以下のような特段の事情がある場合に限られると示しました。
- 譲渡の目的が不当である。
- 期間が不当に長く、相手方の業務活動を著しく制限して、不当な支配を及ぼすようなものである。
本件の「8年分」については、医療機関の資金調達の必要性などを考慮し、公序良俗に反せず有効であると結論付けました。
3. この判決の重要なポイント:特定性の緩和
この判決以前は、「将来債権を譲渡するには、その債権がいつ、いくら発生するか、発生の可能性がかなり確実でなければならない(特定性)」という厳しい考え方もありました。
しかし、この判決は、「債権の発生原因(診療報酬)と譲渡の期間」が明確であれば特定されていると判断し、発生の確実性(本当に患者が来て売上が上がるかなど)は譲渡の有効性には影響しないことを明言しました。
まとめ:実務への影響
この判決により、以下の実務が定着しました。
- 長期の資金調達が可能に: 数年間にわたる売掛金や家賃、診療報酬などを担保にした融資が法的に強く保護されるようになりました。
- ABL(債権担保融資)の普及: 企業が将来の売上を担保に資金を借りる際の不安要素(無効とされるリスク)が大きく取り除かれました。
