条約は内国法で具体的に制定されない限りは、国民個人が遵守することを必要としないのか?

条約は国家間の合意であるので、内国法で具体的に制定されない限りは、国民個人が遵守することを必要としない。」は、日本の法体系においては必ずしも正しいとは言えません

日本の憲法上の解釈と実務では、条約の国内法としての効力は、その内容(性質)によって異なり、自動的に国内法としての効力を持つ場合があるからです。

以下に、その根拠と詳しい解説をいたします。


🇯🇵 日本における条約の国内的効力

1. 憲法上の根拠

日本国憲法は、条約の国内法上の地位について以下の規定を置いています。

憲法第98条第2項: 「日本が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」

この規定は、日本が国際協調主義をとることを示しており、条約の誠実な遵守義務を定めています。判例・通説は、正当な手続を経て承認・公布された条約は、国内法と同一の効力を持つ、またはそれ以上の効力を持つと解釈しています

2. 条約の性質による分類(自己執行性・非自己執行性)

条約が「国民個人が遵守すること」を必要とするかどうかは、その条約が自己執行性を有するかどうかによって決まります。

A. 自己執行的な条約 (Self-Executing Treaty)

  • 定義: 条約の規定が具体的かつ明確で、国内法としてそのまま適用できる内容であり、その規定から国民の権利義務が直接発生するもの。
  • 効力: 国会による別途の立法措置(国内法の制定)なしに、国内法として裁判所や行政庁によって直接適用されます。つまり、国民個人もこの条約の規定を直接の根拠として遵守したり、権利を主張したりできます。
  • 例: 犯罪人引渡条約、国際私法に関する条約など、国民の権利義務に直接関わる具体的なルールを定めたもの。

B. 非自己執行的な条約 (Non-Self-Executing Treaty)

  • 定義: 条約の規定が抽象的で、国家の政策目標を示すに過ぎず、具体的な権利義務を発生させるためには、別途、国内の立法措置が必要とされるもの。
  • 効力: このタイプの条約は、ご提示の文章にあるように、国内法として具体的に制定されない限りは、国民個人の直接の遵守義務や、裁判での直接の適用は生じません。
  • 例: 社会権(生存権など)に関する国際人権規約の一部、環境保護や経済協力に関する抽象的な条約など。

3. 結論

ご提示の文章は、非自己執行的な条約については正しいと言えますが、自己執行的な条約の存在を無視しており、日本の法体系における条約の効力に関する説明としては不十分または誤りとなります。

  • 正確な理解: 条約は、国家間の合意ですが、その内容が自己執行性を有する場合は、内国法として具体的に制定されなくとも、国民個人に直接適用され、遵守が求められます