最判平成5年2月26日(外国人の国政選挙権)

外国人(在日永住者)が、国政選挙(衆議院議員や参議院議員の選挙)の選挙権がないのは憲法違反だ、として国を訴えた裁判です。

最高裁判所は、この主張を退け、**「外国人には国政選挙の選挙権は保障されない」**という判断を下しました。

1. どんな裁判だったのか?

  • 原告: 日本に永住しているイギリス国籍のアラン・ヒッグス氏。
  • 主張: 日本に長年住み、納税の義務も果たしているのに、国政選挙で投票できないのは、憲法が保障する「平等原則(憲法14条)」や「公務員の選定・罷免権(憲法15条1項)」に違反する、と訴えました。
  • 問題の法律: 公職選挙法は、国政選挙の選挙権を持つ者を「日本国民」に限定しています。

2. 最高裁判所の判断(結論)

最高裁は、原告の訴えを退け、**「外国人に国政選挙の選挙権を与えないことは、憲法に違反しない」**と判断しました。

主な理由(2つの重要なポイント)

💡 ポイント1:参政権は「国民固有の権利」

  • 憲法15条1項は「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利とする」と定めています。
  • 最高裁は、この規定が示す通り、**国政に関する選挙権や被選挙権(参政権)**は、国民主権の原理(国の政治の最終的な決定権は国民にあるという考え方)に基づき、日本国民に固有の権利として認められているものだとしました。
  • したがって、外国人には国政選挙の選挙権は憲法上保障されていないと結論付けました。

💡 ポイント2:外国人の地方選挙権(傍論に注意)

この裁判は国政選挙権に関するものですが、判決の中で地方選挙権について、以下のような**「意見(傍論)」**が述べられました。

  • 憲法93条2項(地方自治体の長や議員の選挙権は住民にあるという規定)にいう「住民」は、日本国民を意味するのが相当であり、外国人に地方選挙権を保障したものではない。
  • **しかし、**我が国に在留する外国人のうち、永住権者等であって、その居住する区域の地方公共団体(地方自治体)と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、法律で地方公共団体での選挙権を付与することは、憲法上禁止されているものではない

3. この判例が意味すること

  • 国政選挙権: 外国人には憲法上保障されないことが確定しました。
  • 地方選挙権: 憲法が保障しているわけではないが、国会が法律を作って付与することは憲法違反ではない、という**「許容説」**の立場を、最高裁が初めて示しました。
    • この傍論は、その後の永住外国人への地方参政権付与をめぐる議論に大きな影響を与えましたが、現在に至るまで法律は成立していません。

この判例は、**「国の主権に関わる権利(国政参政権)は国民限定」とする一方で、「地域に密着した権利(地方参政権)は、立法によって外国人にも与える余地がある」**という、外国人の権利に関する基本的な考え方を示した点で重要です。