最大判昭和32年6月19日(外国人不法入国事件)
外国人不法入国事件(最大判昭和32年6月19日)について、ポイントを絞ってわかりやすくご説明します。
1. どんな裁判だったの?
- 事案の概要: 密航によって日本に不法入国した外国人(中国人)が、出入国管理令(現在の入管法)違反の罪に問われた事件です。
- 争点: 不法入国・在留を禁止する当時の出入国管理令の規定が、**憲法22条1項の「居住・移転の自由」**や、**憲法14条の「平等原則」**に違反しないかが争われました。特に「居住・移転の自由」が、外国人の日本への入国の自由まで保障しているのかが大きな焦点となりました。
2. 最高裁判所の判断(結論)
最高裁判所は、**「外国人に対する規制は、憲法に違反しない」**という結論を出しました。
主な理由(2大ポイント)
💡 ポイント1:憲法22条(居住・移転の自由)は、外国人の「入国」までは保障していない
- 憲法22条1項は「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」と定めています。
- 最高裁は、この規定は、日本国内における居住・移転の自由を保障したものにすぎず、外国人が日本に入国する自由までを保障したものとは解されない、と判断しました。
- 理由: 国家が、その領土に出入国する外国人の規制・管理を行うことは、国家の主権に基づく当然の権利だからです。
💡 ポイント2:外国人の人権保障は「特別の留保」の下にある
- 最高裁は、憲法に規定されている基本的人権は、性質上日本国民のみを対象としていると解されるものを除き、外国にも等しく保障されると認めました。
- しかし、外国人の人権保障は、その在留を許されたことを前提としています。つまり、外国人の人権は**「国家が外国人を在留させ、または在留を認めた限度において保障される」**という、**特別の留保(制限)**があることを示しました。
- 結論: 国が外国人の入国・在留について広範な裁量権を持つことは許容されるため、不法入国を取り締まる法律は憲法に違反しない。
3. この判例が意味すること(マクリーン事件との関係)
この判例は、**「外国人の入国は国の裁量」**という基本原則を示した、非常に重要な判例です。
- 入国(上陸)の自由: この事件(昭32年判決)は、「日本に入国する自由」は憲法が保障しないことを示しました。
- 在留の自由(参考:マクリーン事件 昭53年判決): その後のマクリーン事件では、「入国後に在留している外国人の在留期間更新の自由」も、原則として法務大臣の広範な裁量に委ねられる(=更新を求める権利は保障されない)と判示されました。
これら二つの判例により、日本の裁判所は、外国人の「入国」や「在留」に関する人権については、国内の国民の権利とは異なり、国の裁量や政策に大きく左右されるという立場を確立しました。
