最判平成元年3月2日(塩見訴訟)

塩見訴訟(最判平成元年3月2日)について、ポイントを絞ってわかりやすくご説明します。

1. どんな裁判だったの?

もともと日本国民だったが、終戦後の国籍法の変更で一時的に外国籍となり、その後日本国籍を再取得した女性(原告:塩見さん)が、障害福祉年金の支給を国に求めた裁判です。

  • 問題となった点: 障害福祉年金が始まった当時(1959年)の国民年金法には「国籍条項」があり、受給資格を得る障害認定日に「日本国籍がない人」は対象から除外されていました。原告の塩見さんは、この認定日に外国籍だったため、年金が支給されませんでした。
  • 原告の主張: 「生活に困窮している人を助けるのが国の義務(憲法25条の生存権)」であり、「国籍で差別するのは平等原則(憲法14条)に反する」として、国籍条項は憲法違反だと訴えました。

2. 最高裁判所(結論)はどう判断したの?

最高裁は、**「国籍条項は憲法には違反しない」**という結論を出しました。

主な理由(ポイント)

  1. 社会保障は国の「政策的措置」:
    • 社会保障制度(年金など)は、憲法25条の趣旨を実現するためのものですが、限られた国家の財源の中で行われる政策的措置です。
    • そのため、具体的に誰を対象にするかは、国(立法府)の広い裁量に委ねられています。
  2. 自国民の優先は許される:
    • 国は、特別な条約がない限り、在留外国人をどのように処遇するかを政治的判断で決定できる立場にあります。
    • 福祉的給付を行うにあたって、自国民を在留外国人より優先的に扱うことは、その裁量の範囲内で許されるべきであると判断しました。

3. この判例が意味すること

この判例は、**「外国人の社会権(生存権など)は、日本国民の権利とは異なり、無制限に保障されるわけではない」**という、外国人の権利保障の限界を示す重要な判例とされています。

  • 福祉的な給付は、国籍がある人(自国民)を優先する政策的な配慮が、憲法上認められる範囲にあることを示したものです。