【国賠法1条】加害公務員が特定できなくてもOK?(最判昭57.4.1)
通常、民法の不法行為(709条)などでは「誰が加害者か」を特定するのが原則です。しかし、巨大な組織である行政相手に、個別の担当者を特定するのは被害者にとって至難の業。
この判例は、そんな**「特定」のハードル**をグッと下げてくれました。
1. 事件の概要(事案)
成田空港の建設をめぐる紛争(成田闘争)の際、警察の機動隊員と反対派との間で激しい衝突が起きました。
その混乱の中で、機動隊員の誰かが放ったガス弾が反対派の男性に当たり、負傷させてしまいました。
被害者は国に対して賠償を求めましたが、現場は混乱を極めており、「どの機動隊員がそのガス弾を放ったのか」までは特定できませんでした。 国側は「加害者が特定されていない以上、責任は負えない」と主張して争われました。
2. 判決の要旨(結論)
最高裁は、**「個別の公務員が特定できなくても、国賠法1条の責任は成立する」**と判断しました。
判断のポイント:組織としての過失
- 特定の要否: 加害公務員を具体的に(氏名等まで)特定する必要はない。
- 一連の行為: 「国や地方公共団体の公務員による一連の職務執行」の過程で損害が生じたことが明らかであれば足りる。
- 趣旨: 国家賠償制度は、被害者の救済を目的としている。巨大な行政組織の中で、個人の特定を被害者に強いるのは、制度の趣旨に反する。
3. 試験対策!ここが狙われる
試験では、「個人の責任」と「組織の責任」の違いを意識させる問題が出ます。
| ポイント | 結論 |
| 公務員個人の氏名特定 | 不要。 誰かがやったことが分かればOK。 |
| 公務員の「職務中」であること | 必要。 公権力の行使の範囲内であることは証明が必要。 |
| 代位責任との関係 | 国が責任を負う(代位責任)のであって、個人の特定は賠償の必須条件ではない。 |
ポイント:
「公務員個人の特定ができないことを理由に、賠償請求を棄却することはできない」というフレーズを覚えておきましょう。
4. 関連判例・知識とのリンク
- 公権力の行使(警察官による捜査)(最判昭54.7.10)→ 本件も「機動隊の出動」という公権力の行使の場面です。
- 公務員個人への求償権→ 公務員個人に「故意または重大な過失」があれば、国は後でその公務員に支払いを請求(求償)できます。この場合は、当然その公務員を特定する必要がありますが、「被害者への支払い」の段階では特定は不要です。
まとめ
この判例のポイントは、**「誰がやったか分からなくても、組織としてミスがあったなら国が払いなさい」**という、被害者ファーストな考え方です。
「個人の特定は不要」というフレーズは、国家賠償法1条の正誤問題で頻出なので、必ずチェックしておきましょう!
