最判昭47年11月16日(第三者取得者に対する留置権の主張)

最高裁昭和47年11月16日判決は、不動産の売買において**「代金を払っていない買主が、その物件を勝手に第三者に転売してしまった場合、元の売主は新しい所有者(第三者)に対して『代金をもらうまで物件を渡さない』と言えるか?」**という問題に決着をつけた重要な判例です。

結論から言うと、最高裁は**「元の売主は、第三者に対しても留置権(りゅうちけん)を主張して、引き渡しを拒むことができる」**と判断しました。


1. 事案の構図(登場人物)

この事案は、以下の3者の関係で成り立っています。

  1. 売主(A): 不動産の元の持ち主。Bに売ったが代金をもらっていない。
  2. 買主(B): Aから不動産を買ったが、代金を支払わずに転売した。
  3. 第三者(C): Bから不動産を買い、所有権移転登記も済ませた。

2. 争点:留置権は「第三者」にも通用するか?

通常、売買契約における「代金支払い」と「物件引渡し」は同時履行の関係にあります。しかし、同時履行の抗弁権は「契約の当事者間(AとB)」でしか使えません。

そこで問題になったのが、民法295条の**「留置権」です。

留置権は「その物に関して生じた債権」がある場合に、支払いを受けるまでその物を留め置くことができる「物権(すべての人に主張できる強い権利)」**です。

  • Cの主張: 「自分は正当にBから買い、登記も備えた完全な所有者だ。契約関係のないAが、いつまでも居座るのはおかしい(引き渡せ)。」
  • Aの主張: 「代金をもらうまでは、この家は誰が相手でも渡さない(留置権の行使)。」

3. 判決の要旨

最高裁は、以下のような論理でA(売主)の勝ちとしました。

「甲(A)所有の物を買い受けた乙(B)が、売買代金を支払わないままこれを丙(C)に譲渡した場合には、甲は、丙からの物の引渡請求に対して、未払代金債権を被担保債権とする留置権の抗弁を主張することができる。」

判決のポイント

  1. 物権としての性質: 留置権は「物権」であるため、債務者(B)だけでなく、その物について権利を得た第三者(C)に対しても主張できる。
  2. 牽連性(けんれんせい): 売買代金債権は、まさにその「不動産」から生じた債権であるため、留置権の成立要件を満たす。
  3. 公平の原則: 代金を回収できていない売主から、強制的に物件を取り上げるのは公平に反する。

4. この判例の実務上の意味

この判決により、不動産の取引において以下のルールが確立されました。

  • 登記よりも留置権が強い: Cが登記を備えていても、Aが「占有(実際にその場にいること)」を継続している限り、AはCを追い返すことができます。
  • 買主の注意義務: 物件を買おうとする第三者(C)は、登記簿を見るだけでなく、**「実際に誰が占有しているか(前の売主が居座っていないか)」**を現地で確認しなければならない、という教訓になっています。

まとめ

権利の種類第三者への主張この事案での結果
同時履行の抗弁権できない(契約当事者のみ)Bには言えるが、Cには言えない
留置権できる(物権だから)Cに対しても引渡しを拒める

この判決は、一見すると「登記を信じて買ったC」がかわいそうに見えますが、「代金をもらっていないA」を保護することを優先した判断といえます。