最判昭29年1月14日(造作買取請求権と建物留置権)

最高裁昭和29年1月14日判決は、借家人が行使した**「造作買取請求権(ぞうさくかいとりせいきゅうけん)」によって生じた代金債権を根拠に、「建物全体を留置できるか?」**という点が争われた非常に有名な判例です。

結論から言うと、最高裁は**「造作の代金を払ってもらえないからといって、建物全体の明け渡しを拒む(留置する)ことはできない」**と判断しました。


1. 事案の概要

  1. 背景: 借家人が、家主の同意を得て建物に「造作」(畳、建具、備え付けの棚など)を取り付けていました。
  2. 請求権の行使: 賃貸借契約が終了する際、借家人は家主に対し「これらの造作を買い取れ」という権利(造作買取請求権)を行使しました。
  3. トラブル: 家主がその造作代金を支払わなかったため、借家人は**「代金をもらうまで、この建物(家)は返さない」**と主張して、建物の明け渡しを拒みました。

2. 争点:造作代金のために「建物」を留置できるか?

この判決の核心は、民法295条(留置権)の要件である**「債権がその物に関して生じたものであること(牽連性:けんれんせい)」**の解釈にあります。

  • 借家人の主張: 造作は建物と一体化している。だから造作代金は「建物に関して生じた債権」であり、建物を留置できるはずだ。
  • 裁判所の疑問: 造作代金債権はあくまで「造作」から生じたもの。それを理由に「建物全体」を占有し続けるのはやりすぎではないか?

3. 判決の要旨

最高裁は、借家人の訴えを退け、以下のように判断しました。

「造作は建物の従物(じゅうぶつ)であり、建物の構成部分ではない。造作買取請求権によって生じた債権は、造作に関して生じたものであっても、建物に関して生じたものとはいえない。」

判決のポイント

  • 「建物」と「造作」は別物: 法律上、建物本体と、後から付けた造作(畳や建具など)は区別されます。
  • 牽連性の否定: 造作代金はあくまで「造作」の対価です。「建物」そのものから生じた債権ではないため、建物全体を占有する法的根拠(留置権)にはならないとされました。
  • バランスの考慮: わずかな造作代金の未払いを理由に、高価な建物全体の返還を拒むことを認めると、家主に酷な結果となるという公平の観点もあります。

4. 「不動産売買(最判昭47)」との違い

「不動産売買の代金未払い(最判昭47)」と比較すると、違いが明確になります。

判例被担保債権(何の代金か)留置の対象結論
最判昭47.11.16建物そのものの売買代金建物留置できる
最判昭29.1.14**造作(畳など)**の代金建物留置できない

まとめ

この判決により、**「造作代金が未払いでも、借家人は建物を明け渡さなければならない」**という実務上のルールが確立しました。借家人は別途、代金支払い請求訴訟などで回収を図るしかありません。