行政法の一般原則
これらの原則は、法律に具体的な規定がない場合でも、行政が守らなければならない「基本ルール」です。もし行政がこれらに反した行動をとれば、その活動は「裁量権の逸脱・濫用」として違法とみなされる強力な根拠となります。
1. 信義誠実の原則(信義則)
行政と国民との間で、お互いに相手の信頼を裏切らないよう誠実に行動しなければならないという原則です。もともとは民法(私法)の概念ですが、行政法にも適用されます。
- ポイント: 行政側が一度示した態度を信頼して行動した国民を、後から裏切るようなことは許されません。
- 判例の例: 税務署員が「この方法で大丈夫です」と指導し、納税者がそれに従って処理したのに、後で「やっぱり間違っていたので追徴課税します」とすることは、信義則に反し許されない場合があります。
👉最判昭和62年10月30日(旭川租税徴収官事件)
2. 権利濫用禁止の原則
行政権という強力な権限も、その目的を逸脱したり、不当な目的で使ったりしてはならないという原則です。
- ポイント: 形の上では「法律に従っている」ように見えても、実態が嫌がらせや私利私欲、本来の法律の目的とは無関係なものである場合は、権利の濫用として無効になります。
3. 比例原則
行政の目的を達成するための「手段」は、必要最小限度で、かつ目的と見合ったものでなければならないという原則です。
- 内容: 行政の目的(公益)と、それによって損なわれる国民の利益(私益)を天秤にかけ、バランスが取れている必要があります。
- 具体例: 軽微なスピード違反をしたドライバーに対し、一発で「免許取消処分」を下すのは、目的(交通安全)に対して手段が重すぎるため、比例原則に反する可能性が高くなります。
4. 平等原則
行政は、正当な理由がない限り、国民を差別してはならず、等しく取り扱わなければならないという原則です(憲法14条に基づく)。
- ポイント: 「同じ条件の人には同じ扱いを」するのが鉄則です。
- 具体例: 全く同じ違反をした複数の店舗があるのに、特定の政党を支持している店だけを厳しく処分し、他を見逃すといった行為は平等原則違反となります。
5. 説明責任の原則(アカウンタビリティ)
行政は、その活動の内容や理由について、国民に対して十分に説明する義務があるという原則です。
- ポイント: かつての行政は「お上の決めたこと」として不透明な部分もありましたが、現代では民主主義の観点から、なぜその処分を下したのかという「理由の提示」などが厳格に求められます。
- 具体例: 申請を拒否(却下)する場合、ただ「ダメです」と言うのではなく、どの条文のどの基準に抵触したのかを具体的に示す義務(理由付記)などがこれにあたります。
まとめ:5つの原則の役割
これら5つの原則は、いわば**「行政権の暴走を止めるストッパー」**です。
| 原則名 | 一言で言うと |
| 信義則 | 相手を裏切らない |
| 権利濫用禁止 | 権力を悪用しない |
| 比例原則 | やりすぎない |
| 平等原則 | 差別しない |
| 説明責任 | 納得いく説明をする |
行政書士が「行政処分がおかしい」と不服を申し立てる際、これら5つのどれかに触れていないかを確認することが実務の第一歩となります。
