最判昭62年2月12日(帰属清算型譲渡担保における清算金の有無と額の確定時期)
昭和62年2月12日の最高裁判決は、前述の昭和46年判決(清算義務の存在)をさらに具体化し、**「清算金の額をいつの時点の価格で計算すべきか」**という実務上の難問に明確な答えを出した判例です。
譲渡担保を実行する際、不動産などの価値は日々変動するため、その「基準日」を確定させることは債権者・債務者の双方にとって死活問題となります。
1. 事案の概要
- 債務者が不動産を譲渡担保に入れ、返済が滞りました。
- 債権者は譲渡担保権を実行することにし、債務者に対して「担保権を実行し、不動産を自分のものにする」という通知(実行通知)を送りました。
- その後、実際に清算の手続きが進む中で、不動産の価格が変動しました。
争点
清算金の有無や額を判定するための「不動産の評価額」は、いつの時点を基準にすべきか?
- (案A)債務の弁済期が過ぎたとき
- (案B)債権者が「実行します」と通知したとき
- (案C)債務者が不動産を実際に明け渡したとき
2. 判決の結論
最高裁は、「債権者が債務者に対して実行の通知をした時」(通知が到達した時)を基準とすべきだと判断しました。
判決のロジック
- 権利の確定: 債権者が実行通知を送り、それが債務者に到達した時点で、債務者の「受戻権(借金を返して物を取り戻す権利)」を消滅させ、債権者が所有権を確定的に取得するプロセスが開始されます。
- 公平性: 弁済期を基準にすると、その後の価格変動を無視することになり不公平です。一方、明け渡し時を基準にすると、債務者が明け渡しを遅らせることで評価額を操作できてしまいます。
- 明確さ: 「通知の到達時」であれば、客観的に判別しやすく、その時点の時価を基準に清算金を計算するのが最も合理的です。
3. この判例のポイント:受戻権との関係
この判決は、債務者がいつまでなら「借金を返して物を取り戻せるか」というリミットについても指針を示しています。
- 原則: 清算金がある場合、債権者が清算金の支払い(提供)をするまでは、債務者は受戻権を行使できます。
- 基準額の固定: ただし、取り戻すために支払うべき金額や、もらえるはずの清算金の「額」自体は、あくまで**「通知到達時」の時価**をベースに固定されます。
まとめ:実務への影響
この判決により、帰属清算の手順が以下のように確立されました。
- ステップ1: 債権者が実行通知を送る。
- ステップ2: 通知到達時の時価で評価額を出し、債務額を差し引いて清算金を算出する。
- ステップ3: 清算金を支払い、目的物の引き渡しを受ける(これらは同時履行)。
この「通知到達時」という基準は、現在の実務でも不動産譲渡担保の評価において一貫して採用されています。
