最判昭61年7月15日(譲渡担保によって担保される債権の範囲)

昭和61年7月15日の最高裁判決は、「集合債権譲渡担保」(将来発生する売掛金などをまとめて担保にすること)において、その担保が**「どの範囲の借金をカバーしているのか」**という点について重要な判断を示した判例です。

特に、**「特定の借金」のために設定された担保が、その後に発生した「別の借金」**もカバーできるのかという点が争点となりました。


1. 事案の概要

  1. 債務者Aが、債権者Bから「特定の融資(本件融資)」を受ける際、将来の売掛金債権を担保として譲渡しました。
  2. この契約書には、「本件融資のほか、将来Bに対して負うことになる一切の債務をも担保する」という、いわゆる**包括的な担保条項(包括特約)**が含まれていました。
  3. その後、Aは別の取引でもBに対して債務を負うことになりました。
  4. Bがこの売掛金を回収しようとした際、他の債権者が「この担保は最初の融資のためのものであり、その後の債務までカバーするのは認められない(公序良俗違反など)」と主張して争われました。

争点

「将来発生する一切の債務を担保する」という包括的な譲渡担保の設定は、有効なのか?


2. 判決の結論

最高裁は、このような包括的な担保設定について、原則として有効であるという判断を下しました。

① 担保範囲の特定性

将来の債務であっても、それが特定の債権者(B)との間の取引から生じるものであれば、範囲は特定されているとみなされます。

② 公序良俗違反の否定

債権者が債務者に対して持つ「一切の債権」を担保に含めることは、直ちに公序良俗に反して無効になるものではないとしました。

③ 判決のポイント

この判決で重要なのは、**「譲渡担保も根抵当権(ねていとうけん)のような役割を果たせる」**と認めた点にあります。 不動産における「根抵当権」は、一定の範囲の債務を繰り返し担保するものですが、これを債権や動産の譲渡担保でも同様に運用してよいというお墨付きを与えた形です。


3. この判例の意義

この判決により、実務上の利便性が大きく向上しました。

  • 実務の安定: 融資のたびに新しい譲渡担保契約を結び直す必要がなくなり、「今ある担保で、今後発生する借金もすべてカバーする」という契約が法的に保護されるようになりました。
  • 柔軟な資金調達: 企業が継続的な銀行取引(当座貸越など)を行う際、一つの譲渡担保設定で長期間の取引を支えることが可能になりました。

まとめ:これまでの判例との関係

あなたがこれまで質問された判例と合わせて見ると、譲渡担保の全体像がより鮮明になります。

  • 昭54・昭62判決: 「何を(目的物)」担保にできるか(集合物の特定)。
  • 平19判決: 「将来の売上(将来債権)」を担保にできるか。
  • 本判決(昭61): 「どの借金(被担保債権)」を担保できるか(包括担保の有効性)。

このように、一連の判決によって**「将来の売上を担保にして、将来の借金までまとめてカバーする」**という現代的なファイナンス手法の法的基盤が完成したといえます。