最判昭和25年12月28日(不法入国者の人権)

不法入国者の人権に関する最高裁判所昭和25年12月28日第二小法廷判決について詳しくご説明します。


📅 最判昭和25年12月28日判決の要点

この判決は、戦後間もない時期における、不法入国者(非正規滞在者)に対する日本の憲法上の人権保障の範囲を明確にした重要な判例です。

📌 判示事項(結論)

最高裁判所は、不法入国者であっても、**「いやしくも、人たることにより当然享有する人権は不法入国者といえどもこれを有するものと認むべきである」**と判示しました。

🔑 判決の意義

  • 積極的な人権保障の確認(積極説):
    • 人権(特に基本的人権)は、人が生まれてきたことから当然に持っている、前国家的・前憲法的な性質のものであるという立場(自然権思想)に基づいています。
    • 国籍や在留資格の有無にかかわらず、「」である以上、憲法が保障する人権(人格的生存に必要な自由権など)の主体となると認めました。
  • 国際的な人権意識との合致:
    • 憲法前文や第98条(国際協調主義)に示される国際主義、さらには世界人権宣言などの国際的な人権基準とも調和する考え方です。

📜 具体的な対象となる人権

この判決は、すべての人権が外国人、まして不法入国者に無制限に保障されると述べたものではありませんが、「人たることにより当然享有する人権」には、主に人格的生存に不可欠な自由権などが含まれると解釈されます。

具体的には、不法入国者であっても、人身の自由(恣意的な逮捕・拘束からの自由)、適正な法の手続きを受ける権利(デュー・プロセス)、思想・良心の自由などは保障されるべきである、という基本的な考え方を確立しました。

⚖️ 後続判例との関係(マクリーン事件との比較)

この判決は、不法入国者に対しても一定の人権保障を認める画期的なものでしたが、後の最高裁判決では、外国人に対する人権保障の範囲について、さらに具体的な基準が示されます。

特に有名なのが**マクリーン事件(最判昭和53年10月4日)**です。

判例対象となる人争点判示の傾向
最判 昭25.12.28不法入国者人権の一般的な享有主体性人権享有主体性を広く認める(人たることによる人権)
最判 昭53.10.4在留外国人憲法21条の表現の自由、在留権権利の性質による制限を明示(政治活動の自由など)

マクリーン事件判決では、「権利の性質上日本国民のみを対象としていると解されるものを除き、外国人にも保障が及ぶ」としつつ、外国人の在留の許否は国の裁量に属するという立場を取りました。

つまり、昭和25年判決は**「人権は原則保障」という大原則を示し、マクリーン事件判決は、その原則を前提としつつも、「権利の性質や外国人の地位に基づく具体的な制約」**の可能性について言及したものと位置づけられます。


この判決は、現代においても、非正規滞在者を含む外国人の人権問題の議論の基礎となる、極めて重要な判例です。